Destino-sailing

セーリング競技規則やレース運営を中心に、セーリングライフについて書いています。

マークルームといえばゾーン

何度も書いていますが、規則18「マークルーム」はマーク周辺に関するルールが記載されています。

マーク周辺とは、ゾーンに入るところあたりから始まります。「あたり」というのは、そこがゾーン内なのか、ゾーン外なのか、という点が絡んでくるケースがあるからです。

 

ということで、ゾーンの確認を。

 

ゾーン

マークに近い方の艇の3艇身の距離で囲まれた、マーク周囲の区域を、ゾーンという。艇体の一部がゾーンに入っている場合、その艇は、ゾーンの中にいるという。

 

私個人の感覚的には、ど微風の場合を除き、3艇身のゾーンは意外と小さいと思っています。ただ、ゾーンの中を真っすぐにマークに進めるケースは少ない(特にインシデントが起きる場合は!)ので、実際には自艇がゾーンに入ってからマークを回航するのには、3艇身以上帆走しているということをイメージできていると良い思います。

 

youtu.be

 

この図では、ゾーンに入ってからマークまで、A3.5艇身くらい、B5艇身くらい、C6艇身でしょうか。どのような位置からゾーンに入るかによって、ゾーンの中を走る距離は変わってくるという例です。

 

繰り返しになりますが、審問で多いケースの一つは、そのインシデントで主張する規則の根拠がゾーンの中だった、もしくはゾーンの外だったという対立です。これは、お互いの主張が永遠に平行線をたどりかねない議論になるので、マーク周辺でインシデントがあった場合は、よくよく自分の主張を客観的に立証できるようにしておきましょう。インシデントが発生したら、周囲の艇との位置関係をメモする。風向・風速・波の状況・自艇のスピード(クルーザーであればメーターで分かります。ディンギーの場合は風速がわかれば設計スピードが参考になります。)・時間(スピードと時間がわかればマークまでの距離がわかります。)も可能な限り、とっておくと有効です。こういった立証データが多い艇の主張の方が事実認定される可能性が高まります。※もちろん、さらにその主張を後押ししてくれる証人がいる方がより事実感が強まります。双方に同じだけの立証データがある審問では、証人や立証データ等の妥当性の差が、判決に結びつきます。

また、ゾーン到達時にゾーンに到達したことや、オーバーラップの有無等の権利関係をブツブツ言うこと(航路権規則17つづきの回を参照)や、場合によってはそれを周囲にわかるように主張することも、アリだと思います。(証人が現れるかも!)

どういう位置関係でゾーンに入り、ゾーンの中でどのような動きをし、どのような状況でインシデントが起きたのか、その位置関係と状況をどのように測ったか、つまり主張の妥当性をどのように高めるか、がポイントです。

 

それから、ゾーンの中で航路権のルールが無くなるということではありません。基本規則は生きていて、ただマークルームを与えなければならないというだけです。マークルームを与えてもらえる艇は、与えられるのは通れる分だけです。特に、非航路権艇でマークルームを与えられる立場の場合、通れるルームがあるのに、航路権の主張かのごとく「ルームをもっと頂戴。」は無しです。

 

それから、先にも書きましたが、実際インシデントが起きた時、規則18適用かそうでないのか=ゾーンに入った時にどういう位置関係だったか、が争点となるケースは多いですので、ギリギリで内側に入ろうとする艇は、オーバーラップをしっかりと立証できる状態で入っていかないと、以下のようなことになりかねません。

 

18.2 マークルームを与えること

(e) 艇が適時にオーバーラップしたこと、または解けたことに妥当な疑いがある場合には、そうならなかったとみなさなければならない。

 

これは、例えばゾーンに入るギリギリのところで波に乗ったクリア・アスターン艇がマークの内側に鼻先がオーバーラップまで追いついて、「オーバーラップしたぞ!」と言ったとします。え!?と与える艇が振り返って見た時に、またオーバーラップが切れていたりしたら、本当にオーバーラップしていたのか?となります。そんな場合は、オーバーラップしていなかったことになりますよということです。

但し逆に、ずっとオーバーラップしていて、ゾーンに入る瞬間だけ、もしかしたらラップが切れた?と見えたとしても、やっぱりラップしているようなら、オーバーラップとみなしますよということです。

 

マークルームの規則は航路権の規則ではなく、いわばマーク周辺の交通整理のためのルールだということです。