Destino-sailing

セーリング競技規則やレース運営を中心に、セーリングライフについて書いています。

お手洗い事情on the water

今日はルールとは少し離れて、でも少しだけ関連する話です。

 

突然ですが皆さん、海上でのお手洗いはどのように済ませていますか?

私は女性で、キールボート・ディンギー・運営ボートで海上で一日過ごす経験をしていますが、お手洗い問題は、ヨットを始めた当初からの課題でした。

 

単日のレースや練習で、男性の皆さん、どのようにされていますか?

日本でしか活動していないと、海外の男性がどのような所作か?を気にしたこともないと思いますが、

海外では男性も水中や他人から見えないように船内されていると思います。

というか、日本でよく見かけるようなデッキから外へ、というのをあまり見たことがありません。

 

それから男女問わず、課題を感じる方、どのようにされていますか?

極端に摂取水分を減らして体調を崩してしまったり、また季節によって色々工夫されていることと思います。

 

とにかく、皆さん、ヨットレースは人間が開催して、人間が参加している企画ですので、

人間的生理現象は起きること前提・処理することは当然として行っていきましょう。

 

「・・・とはいえ!」なことがヨットに乗っている時の生理現象だと思います。

 

マリントイレがある艇にいれば、解決できることと仮定します。

そうでない場合、色々悩まれると思います。

 

ということで、まず私の経験(おそらくほぼ女性目線)@ディンギーレースについて記したいと思います。

 

ドライスーツの場合~マリントイレのある艇に行くか?おむつをするか?~

ドライスーツは冬に着るイメージがあるかと思いますが、寒流の影響のある海域でレースをする場合、夏でも真冬の身支度をして海に出る必要があります。

日本で、真冬に終日海上にいるようなレースに出ることは少ないかと思いますが、

カナダやイギリスで、実際に陸は半袖でも海上は夏でもドライスーツを着てディンギーレースに出た経験があります。

極寒の1日最大3~4レース。朝から一滴も飲んでなくてももよおす。そんな時、どうするの?

 

選択肢の一つは、マリントイレのある運営艇に協力していただくこと。

ただ、レースの合間のほんの数分~数十分の間に、運営ボートに意思を表明し、ボートに近づいて乗り移り、お手洗いを借りて用を済ませて自艇に戻り、レースに戻る。というのは、時間的に困難なことを経験しました。

お手洗いに間に合わないか、レースに間に合わないかの二択・・・。

(ちなみに、一人乗りの方はこの選択肢はほぼ無いですよね。)

 

ということで、他の選択肢としては、大人用おむつをドライスーツの中に着こむ。

これはちゃんとできればOKですが、ドライな環境で用を足すことの(精神的なことを含めた)困難さ、そして使用後の処理も困難です。

そんなこともあって、私はドライスーツをやめました。最近ではドライスーツの人はそんなに多くないのかな。。。

 

※他にも、ドライスーツをボート上で脱いでする。とか、あるかもしれませんが、安全面でリスクが高いと思うので、割愛します。

 

②ウェットスーツ場合~濡れるか?濡れないか?~

一番イージーなのは、ウェットスーツで海に入って用を足すことではないでしょうか。

その問題点は、軽風以下でまったく濡れていないのに、濡れなければならない(濡れる&重くなる)。

波が高い等コンディションが悪い海域では、海に浸かることが困難。

冬は無駄に寒くなる。等でしょうか。

海に入らずそのままその場でしてしまうこともありますが、ドライスーツの中のおむつ同様、ちょっと困難なのと、やはり濡れます。

 

濡れることを極力減らそうとすると、ドライスーツより脱ぎやすいウェットスーツならではの、脱いで用を足す。

これをやっている方が多いと思います。ハイクアウトのような格好でしますが、家族以外の男性と一緒に乗っている女性セーラーにとってはハードルが高いと感じる方も多いでしょう。

 

③運営@ラバーボート

ラバーボートには通常マリントイレはないです。

夏は水分摂取を制限すると熱中症になりやすく、水分摂取と水分排出のバランスが悩ましいし、冬は寒くて選手より寒さを感じるでしょう。

選手なら海に浸かって~がまだやりやすくても、なかなかそこまでしないのではないでしょうか。陸に戻ることも難しいと辛いです。

これはボートの形状に寄りますが、スターンで脱いで用を足すということが出来ます。

そのために用を足しやすい服装をしておきます。

(少し長めのトップス+サロペットのボトムスは個人的にオススメです!)

が、こちらも男性と一緒に運営していると、ハードルが高いと感じる方も多いかと思いますが・・・。

 

人間は用を足すことが生きる上の基本的欲求であり、これを我慢したり制御することで、病気になってしまうことがある訳で、健全な欲求を満たせないことで、ヨットで健康を損なうことの無いよう、良いアイディアがある方は是非色々な工夫を教えていただけたら嬉しいです。

 

さて、この排泄物について、規則的にはどうなんでしょうね。以下、再掲規則です。

 

47ごみの処分

競技者および支援者は、故意にごみを水中に投棄してはならない。この規則は水上にいる間は常に適用される。(後略)

 

排泄物はごみに含まれますか?

まず、人間から出る直接海に出る排泄物(上から出るものも下から出るものも)は「ごみ」とは言えないですね。

 

ただ、日本ではマリントイレはついているヨット・小型船舶も、基本的には船外にそのまま排出していますが、

海外では船内タンク設置が義務付けられていて、ハーバーにバキューム施設がある国もあります。

なので、日本の現状も結構微妙・・・これから時代が変わっていくと、「溜めたものはごみ」に変わっていく可能性はありそうです。

 

あとは、公海で排出はOKです。これは公海において定めた国際海洋法条約に以下の内容があり、排泄物タンクを設置した船舶であっても活動中の排泄物を海中投棄することは「投棄」に含まれないことになっています。

 

第一部 序

第一条 用語及び適用範囲

(b)「投棄」には、次のことを含まない。

(i)船舶(中略)の設備の通常の運用に付随し又はこれに伴って生ずる廃棄物その他の物を処分すること。

(後略)

 

今日、なぜこの話をしたかというと、

Vendee Globe 2020-2021(ヴァンデグローブ世界一周レース)に日本から参加した白石康次郎さんの「DMG MORI Global One」艇の公開見学会に参加することが出来たことに端を発しています。

世界一周艇にトイレはあるのか?を質問しました。

 

あるんですね~。しかし一般的なマリントイレではなく、バケツ。

袋をバケツにかけてそこに排泄し、それを海に投棄するということでした。

これはルールに抵触するか?ですが、もちろんしませんよ。世界一周、汚物を持っていけませんし。

 

このトイレ袋はでんぷんで出来ていて、生分解されるものとのことでした。

 

Vandee Globe

Sailing Instructions

 

20 TRASH DISPOSAL   Respect for the environment is a fundamental value for the Vendée Globe. With the  exception of biodegradable items, competitors must not throw their waste  overboard. In compliance with the OSR, waste must be kept on

board until  competitors disembark.   

 

しかも、ほとんどの航程は公海上。環境に配慮した投棄をしているとのことでした。

 

さて、それにしてもやっぱりとても大きな艇で、隅々まで説明&見学させていただき、とっても楽しかったです。

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救済要求をする。

オリンピックが終わって、ずいぶんと更新を怠ってしまいましたが、気持ちを入れ替えて書いていきます!

 

 

さて、今回は抗議の権利の回にも書いた規則60の権利の2つ目、救済要求について確認していきたいと思います。

 

60.1 艇は次のことができる。

(a)他艇を抗議する。

(b)救済要求をする。

(後略)

 

抗議は艇にしかできません。レース委員会の手違いや避けられない/守るべき事由等によって自艇(だけでなくても)が明らかに順位が悪くなった場合、救済要求を検討します。

分かりやすくするため、「レース中の自艇に救済を要求する場合」のケースとして、以下に規則をまとめます。

 

62 救済

62.1 救済要求(中略)は、レースのレースまたはシリーズにおける艇の得点または順位が、その艇の過失ではなく、以下のいずれかの理由により、明らかに悪くなったかまたは悪くなるかもしれないという主張または可能性に基づくものでなければならない。

(a) 大会のレース委員会、プロテスト委員会、主催団体、テクニカル委員会の不適切な処置または不手際。(後略)

(b) 第2章の規則に違反して適切なペナルティーを履行した艇、ペナルティーを課された艇、またはその艇を避けている必要があったか(中略)過失があったと判定されたレース中でない船舶の行動により被った傷害または物理的損傷。

(c) 規則1.1に従って救助(自艇またはその乗員に対する救助を除く)を行ったこと。

(d) 規則2に基づくペナルティー、または規則69に基づくペナルティーもしくは警告を受けることになった、他艇またはその乗員もしくは支援者の行動。

 

つまり救済とは、

自分の過失ではなく

大会運営の不手際、他艇の影響による傷害/物理的損傷、もしくは基本規則である規則1安全)・規則2公正な帆走)を遵守した、(の)ために

得点/順位が悪くなった/なる場合

に、要求することができるものです。

 

やり方は抗議をするのと同じで、書面(審問要求書)で提出します。

 

62.2 救済要求は書面でなければならず、要求する理由を特定していなければならない。救済要求がレース・エリアで起こったインシデントに基づくものである場合には、抗議締切時刻またはそのインシデントから2時間後のいずれか遅い方までに、レース・オフィスに提出されなければならない。それ以外の救済の要求は、要求する根拠を知った後、常識的にできるだけ早く提出されなければならない。(中略)赤色旗は必要としない。

 

もちろん、抗議と同様、要求したからと言って救済されるとは限りません。

審問において、自艇に過失がない証明・運営に不手際があった証明・それによって順位が悪くなった証明等、これらの立証をできないと救済されないこともあるでしょう。

 

なお、判決で救済されることになった場合、同じ要因(レース委員会の不手際等)で影響を受けた艇は救済要求していなくても結果が調整される場合があります。

 

64.3 救済の判決

プロテスト委員会は、ある艇が規則62に基づき救済を受ける資格があると判決した場合、救済を求めたか否かにかかわらず、影響を受けたすべての艇に対してできるだけ公平な調整を行わなければならない。(後略)

 

そして、規則には救済があった場合の指針もありますので、これをベースに調整されるケースが多いでしょう。

 

A9 救済についての指針

(前略)

(a) 問題のレースを除き、その艇のシリーズでの全レースの平均に等しい小数点以下第1位までの得点(小数点以下第2位を四捨五入)。

(b) 問題のレースより前の全レースの平均に等しい小数点以下第1位までの得点(小数点以下第2位を四捨五入)。

(c) 救済が正当とされたインシデントの時点におけるそのレースでのその艇の順位に基づく得点。

 

規則60に通じる全てのことですが、抗議も救済要求も、義務ではないということもポイントです。

他の規則も含め、英語の原文は明確ですので、解釈に迷ったら原文を見てみてください。

may=できる(やってもいいけど、やらなくてもいい)

shall=しなければならない(遵守義務がある)

メダルレース規則②ペナルティー履行

いよいよ東京オリンピック2020セーリング最終日です。470女子・男子で日本選手がメダルレースに出場します。

メダルレースはOpening Series(予選レース)の上位10艇が参加できます。レースは一発勝負、得点は低得点方式の2倍のポイントが付きます。予選のスコアも生きた上で、逆転劇も起こり得るので、アイキャッチでオリンピックを観る人を楽しませることが目的の一つであるレースです。

 

さてこのメダルレースの特別規則(付属文書QRRS付則MR)適用のレースにおいては、規則違反はアンパイアがその場でジャッジしていきます。選手がプロテストを出した時も、可能な範囲でその場で判定していきます。

 

Q2 艇による抗議と救済要求

Q2.1 レース中、艇は第2章の規則(規則14(接触の回避)を除く)、規則31(マークとの接触または規則42(推進方法)に基づき他艇を抗議するこ とができる。ただし、自らが関与したインシデントにおいてのみ第2章の規則に基づく抗議をす ることができる。抗議するためには、その艇は「プロテスト」と声をかけ、目立つように赤色旗を掲揚しなければならず、それぞれを最初の妥当な機会に行わなければならない。その艇は、インシデントに関与した艇が自発的にペナルティーを履行した後、またはアンパイアの判定後、最初の妥当な機会に、またはその前に、赤色旗を降下しなければならない。(後略)

※赤色旗無しでOKのクラスもあり。

 

昨日までのメダルレースでも艇が赤色旗を出して、JURYボートから旗が振られるというシーンが何回かありました。普段、赤色旗を使わないディンギー選手が、それぞれ工夫してすぐに出せるように赤色旗をセットしていたのがちょっと面白かったです。

 

Q2.2 (前略)インシデントに関与した艇 は、規則44.2 に従って『1 回転ペナルティー』を速やかに履行することにより規則違反を認めることができる。規則に違反し免罪されない艇が自発的にペナルティーを履行しない場合には、アンパイアは、そのようなどの艇にも、ペナルティーを課すことができる。(後略)
 

そうなんです。メダルレースでの回転ペナルティー1回転なのです。

 

Q1.2 抗議、救済要求、ペナルティー、免罪に関する規則の変更

(a) 規則44.1は『2回転ペナルティー』を『1回転ペナルティー』に置き換えて変更する。

 

そして、アンパイアがペナルティーを課す合図については、以下です。

 

Q3 アンパイアの信号と課されるペナルティー

Q3.1 アンパイアは、以下のとおりに判定の信号を発する。

(a) 長音1声と共に掲揚する緑色と白色の旗は、「ペナルティーを課さない」ことを意味する。

(b) 長音1声と共に掲揚する赤色旗は、「ペナルティーが課された、または未履行のままであ る」ことを意味する。アンパイアはそのような艇を特定するために声をかけるか、または信号を発する。

(c) 長音1声と共に掲揚する黒色旗は、「艇を失格とする」ことを意味する。アンパイアは失格とした艇を特定するために声をかけるか、または信号を発する。

 

(a)の緑色と白色の旗というのは、緑と白のチェッカーになっているものです。

オリンピックのメダルレースは全艇種で各レースに5艇のJURYボートが配置されています。出走艇数が10艇なので、ほぼ網羅的にアンパイアリング出来る体制だと思います。海上で全てのインシデントに即座に判定を出せれば、陸に上がってからの審問を省くことができ、勝敗の決着がわかりやすくなります。

 

Q3.2

(a) 規則Q3.1(b)に基づきペナルティーを課された艇は、規則44.2に従って『1回転ペナルティ ー』を履行しなければならない。

(b) 規則Q3.1(c)に基づき失格とされた艇は、速やかにコース・エリアを離れなければならない

 

今のところ(470以外)今回のオリンピックで、Q3.2(b)で失格になった艇はいません。

 

そもそも、メダルレースのような特殊な規則が適用されるレースを私自身がリアルに見たことはなく、聞いていたことを今回のオリンピックで初めて見たので、どんなケースがあるのかをあまり紹介できなくてすみません。

とりあえず、こんな規則があるんですよ~を簡単に紹介するにとどめさせていただきます。

 

では、ビッグイベントの最後のメダルレースを楽しみましょう!!

 

メダルレース規則①リコール艇の特定

メダルレースのことをもっと早く書き始めれば良かったです。

メダルレースは通常のRRSに追加されたAddendum(付属文書)にそのやり方が記載されています。正確にはAddendum Q(RRS Appendix MR)という文書です。厄介な文書名ですね。これは近い将来、Appendix MRになるようです。

 

2020オリンピック時点での付属文書 Q (RRS 付則 MR) (日本語対訳付き版)

 

通常適用されている規則と異なる点は色々あるのですが、スタートの部分にある特徴的な規則が実際のメダルレースで見られましたので、紹介しておきます。

 

レーザーラジアルのメダルレースのスタートで、X旗が上がりました。

自分かと思って戻って解消した艇もいましたが、実際にはOCSだった艇はそのままレースを続けていました。

しばらくして、JURYボートがX旗を持ってリコールした艇に近づきホイッスルを吹き、コールされた艇はリタイアしました。

これは以下の規則に因ります。

 

Q3.3 OCS、UFD または BFD と記録された艇の特定

 (a) アンパイアが長音1 声と共に掲揚するX 旗は、「艇はレース委員会によりOCS、UFDまたはBFDと記録された」ことを意味する。アンパイアは当該艇を特定するために、声をかけるか、または信号 を発する。特定された艇は、速やかにコース・エリアを離れなければならない。この信号は、スタート信号から2分後以降いつでも発することができる。

(後略)

 

通常のレースであれば、基本的にはJURYがリコール艇を排除することは無いですし、そもそもX旗はOCSが解消されなければ原則4分間上げている規則(規則29.1)があります。

このように変則的な規則があるのがメダルレース特有の規則ですが、規則Q3は失格艇が帆走し続けて他艇に不利な影響を与えることを避けるために新設された規則です。

 

規則42違反が取り消される場合

東京オリンピックのレーザーラジアルの予選最終レースで、スタート後、トップのデンマークの選手が泣き崩れていたシーンがありましたね。私はあまり集中して見ていないタイミングで、スタートで規則42違反(スカリング)を取られたところと、その後泣いているところを見て、この一つ前のレースのダウンウィンドレグで、規則42違反(ロッキング)でペナルティーを履行していたので、2回連続してショックだったのかなと思っていました。

が、その後、再度映像を見てみると、規則42違反したスタートはゼネラル・リコールで、その後の再スタートでスタートした後にリタイアして、そこで泣いていたことがわかりました。

 

これ、J:COMでの後藤浩紀さんの解説を聞いてやっと理解できたのですが、自分のルール理解不足の悔し泣きだったのですね。

 

付則P 規則42に関する特別な手順

 

レーザークラスは付則Pが適用されていて、オンザウォータージャッジにより規則42違反を指摘されます。下記はレーザーラジアルの予選10レースのオンザウォーターペナルティー一覧です。

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比較的風の弱かった初日と最終日に集中していますね・・・。

それはさておき、オン・ザ・ウォーター・ジャッジでのペナルティー履行の回で書いた通り、レガッタ中に違反をコールされた場合、1回目は2回転ペナルティー2回目以降はリタイアがペナルティー履行となります。

デンマークAnne-Marie Rindom選手は、第9レースで既に1回目の2回転ペナルティーを履行していたので、第10レースのスタートで笛を吹かれて、すぐにリタイアしました。すぐにリタイアしましたが、それがゼネラル・リコールとなったわけです。

すると、ペナルティーはどうしたらいいのか?と悩むことになります。そして、ゼネラル・リコール後の再スタートを一線でスタートしたものの、このレースをリタイアしなければ、除外できない失格になってしまう・・・と恐れ、再度リタイアしたと思われます。

オリンピックの予選レースはカットレースが1レースで、除外できない失格が付くと2位以下に大きく点差を縮められてしまうと思ったためでしょう。その時点で彼女がどこまで点数計算を出来ていたのかは分かりませんが、8レースまでダントツの点差で首位だったにも関わらず、第9レースで落としたところ、さらに第10レースで大きな点数がつき、それが除外できないスコアになることが恐ろしかったのだと思います。

 

P3 延期、ゼネラル・リコールまたは中止の場合

艇が規則P1.2の規則に基づきペナルティーを受け、レース委員会が延期、ゼネラル・リコールまたは中止の信号を発した場合には、ペナルティーは取り消される。ただし、そのペナルティーは、大会中にペナルティーを課された回数を決めるためには数えられる。

 

リタイアした後に、再スタートではリタイアしなくて良かったことを知り、泣き崩れていたということなのでしょう・・・。

 

TCからのプロテスト

権威あるレガッタでは、抗議が多数出るのは当たり前のことです。

今回のオリンピックもいくつも出ていますが、通常の国内のレガッタではレアな抗議が出ていたので、こういうケースが無いとなかなか紹介できない規則について書きたいと思います。

 

それは、テクニカル委員会(Technical Comittee)からの抗議です。

テクニカル委員会というのは、2017-2020RRS改正の時から設置された委員会です。

 

92 テクニカル委員会

92.2 テクニカル委員会は、主催団体の指示に従い、かつ規則により求められるとおりに、装備検査と大会計測を実施しなければならない。

 

60.4 テクニカル委員会は、次のことが出来る。

(a) 艇を抗議する。(中略)艇または個人装備が、クラス規則または規則50に従っていないと判定した場合には、艇を抗議しなければならない。

 

装備検査と大会計測については、RRS第4章B節および付則Hに書かれています。

 

4章 レース中のその他の要件

B節 装備に関るする要件

50 競技者の衣類と装備

 

付則H 衣類と装備の計量

 

RRS以外にもクラス規則で定められた艤装についても計測の対象になります。

セーリング競技の特徴でありますが、複数回レースでのレガッタ成立となるため、複数日程にまたがって計測が行われます。通常、第1レース出走前の全艇計測と、レガッタ中のピックアップ計測です。

計測は、主催団体の方針に則ります。今回のオリンピックのSIには、レガッタ中の計測は、呼ばれた艇が計測される。となっていまが、実際にはクラスごとに、ある日の着艇後に全艇の装備計測を行ったりということを含め、公平なピックアップでの計測を行っているようです。

 

今回、大会期間中の計測で、テクニカル委員会からの抗議により50.1(b)違反により失格になった艇が何艇かいます。

 

50 競技者の衣類と装備

50.1

(a) 競技者は重さを増す目的で、衣類または装備を着用したり、身に付けてはならない。

(b) (前略)ハイキング・ハーネスまたはトラピーズ・ハーネスは、浮力のあるものでなければならず、また2kgを超えてはならない。(後略)

 

付則Hに衣類の計量方法が記載されています。

 

付則H 衣類と装備の計量

H1 計量する衣類や装備は、(中略)水に十分に浸した後、計量する前に1分間自然に水を切らなければならない。(中略)水を保持することのできるポケットまたは物品は、水を満たしておかなければならない。

 

クラス規則と掛け合わされる部分もあるのですが、トラピーズ・ハーネスが重過ぎ。で、抗議を出されています。何故かというと、その日にサポートパッドを付けて出ていたということで・・・。そんなこともあるのですね。

 

テクニカル委員会からの他のいくつかの抗議でも、クラス規則の違反で、同じく装備の重量オーバーにより失格となっています。大会プレ計測では規則範囲内でも、破損等で交換した部品によりほんの数10グラムの超過で規則違反となってしまって抗議が出された艇もいました。シビアな世界ですが、これが勝負の世界ということですね。

 

O旗とR旗

オリンピックのフィン級の初日、特に第1レースは風の強弱・振れが激しかったですが、第1マークでR旗が掲揚されました。

ぼんやり見ていた私は、ここで初めてフィンもP5適用できるクラスルールなのか~と気付きました。

P5とは、付則Pの規則5のことです。

470420に乗っている方は知っていると思いますが、今回はO旗・R旗について書きたいと思います。

 

付則P 規則42(推進方法)に関する特別な手順

 

P5 O旗とR

P5.1 規則P5が適用される場合

規則P5は、クラス規則が、風速が規定の制限を超えたときにパンピング、ロッキング、ウーチングを許可している場合に適用される。

 

付則Pと推進方法の解釈の回で書いた通り、推進力を増すためのパンピング、ロッキング、ウーチングはNGです。付則Pが適用されるレースでは、オン・ザ・ウォーターでの規則42違反のジャッジが行われます。

が、クラス規則で一定以上の風速がある場合はむしろやってOKとなるという規則がP5です。

簡単に言うと、O旗があがっていたらOKR旗があがっていたらNGです。

 

P5.2 スタート信号前

(a) レース委員会は、予告信号前または同時にO旗を掲揚することにより、クラス規則に規定されたとおりにパンピング、ロッキングおよびウーチングを許可するとの信号を発することができる。

 

P5.3 スタート信号後

スタート信号後、

(b) O旗が掲揚された後、風速が規定された制限以下になった場合には、レース委員会はマークにて反復音響信号とともにR旗を掲揚することにより、マークを通過した後クラス規則で変更されたとおりに規則42が適用される、との信号を発することができる。 

 

フィンの第1レースでは、上記の通り、スタート信号前に一定以上の風速があってO旗が掲揚されていてパンピング・ロッキング・ウーチングがOKだったのが、風が落ちたので第1マークでR旗があがってNGになったということです。

 

P5が適用されないクラスの艇に乗っていると、なかなか知ることが出来ないかもしれませんが、オリンピッククラスでは470(コース全体に明らかに平均8knots以上の風がある場合、P5適用)、フィン(クロースホールドより風上航を除き、10knots以上でのP5適用を推奨)が該当クラスとなります。

 

ちなみに、RS:Xは前回紹介した付則BB4でパンピングとファンニングが許されています。スタートで一斉にファンニングするのはウィンドサーフィンのレースのイメージにもあると思います。

 

ナクラ17は風上へのビート以外でフォイリングするためであれば、(どんな風域であっても、つまりP5関係無しに)何度でもパンピングしてOKというクラスルールになっています。

 

レーザー/レーザーラジアルと49er/49erFXは、P5が適用されないクラスです。

 

RS:Xより

せっかく毎日オリンピックを観戦しているので、その中からRRSの読み方的なところを何かお伝え出来たらと思い、可能な限りブログ更新をしたいと思います。

今日はRS:X、ウィンドサーフィンについて書きます。

 

ウィンドサーフィンはセーリング競技の一つです。1984年ロサンゼルス大会からセーリング競技(当時の呼び方は「ヨット競技」)の一つとして加わったようです。現在採用されているRS:X、2008年北京大会から採用されました。

 

ウィンドサーフィンについての規則は、RRSの付則Bに記載されています。

※ちなみにウィンドサーフィン自体にはスラロームやフリースタイル等の種目もあるので、付則Bに書かれているものはオリンピックのセーリング競技で行われているようなフリートレースでの競技規則となります。

 

付則B ウィンドサーフィン・フリート・レース競技規則

 

この中に、ウィンドサーフィンでのレースに適用される規則、つまり定義の変更や第1章~第7章までの規則の変更について、書かれています。

 

例えば、スタートについてはウィンドサーフィンはビーチ・スタートのケースがあるので、それがルール化されていたりします。

 

B3 第3章の規則の変更

26 レースのスタート

規則26を次のとおり変更する。

 

26.3 方式3(ビーチ・スタートに適用)

(内容省略)

 

オリンピックのレースでは他の艇種と同じやり方のスタートが採用されていますが、他にも方式がありますし、これ以外にも変更されている規則がありますので、ウィンドサーフィンでレースに出ようと思う方は、出場前に付則Bを一読しましょう!

 

さて、ヨット乗りが初めてウィンドサーフィンのレースを見て、一番違和感を感じるのはマーク・ラウンディングのシーンではないでしょうか。

うわわわ・・・マークに張り付いてる・・・と。

 

B3 第3章の規則の変更

31 マークとの接触

規則31を次のとおり変更する。

ボードはマークに接触しても良いが、つかまってはならない。

 

初めてこの規則を知った時は、へ~~~と思いました。ウィンドサーフィンならではの規則ですね。

 

※本ブログはヨット乗りがヨット乗りの目線で書いているので、ウィンドサーフィンからセーリングを始めている方、同じ「セーリング競技」なのに・・・と思われたらごめんなさい。ウィンドサーフィンについては私も勉強しながら書いていきますので、特別扱いになってしまうことをご了承ください。

 

東京オリンピック2020始まりました

東京オリンピックが始まりました。そして今日からセーリング競技がスタート!

 

リアルタイムで超高性能カメラの映像をライブで見ることが出来るなんて、今回のオリンピックが初めてです。

各艇にリアルタイムライブ配信用のカメラが積んであって、空中からの撮影もされていて、すごい・・・。これから毎日PCに釘付けになりそうです。

私は470のメダルレースの観戦チケットを入手していたのですが、無観客になってしまい残念に思っていました。でもこれなら会場に行くより近くで、それもリアルタイムで見られる!

これは思ってもいませんでした。技術の進歩と、それに携わる方々に感謝です。

 

さて、今までこのブログに書いたことを読んだ方の中には、オリンピックのレース映像を見て「??」と思うこともあるかと思い、一旦、ブログの本筋の話はおいておいて、気付いたことを書いておこうと思います。

 

初日の今日はまず、スターティングシステムについて。

これは、前回のリオ五輪の時からだった(私が気付いたのがリオだったかもしれません)と思いますが、規則26に記載されたやり方ではないレース信号旗が採用されています。スタート信号の時刻を表す方式が、信号旗の掲揚・降下で5-4-1-0で示すのではなく、数字旗で分のカウントダウンが表示されています。

※通常のやり方はレースの帆走>①スタートの回をご参照ください。

 

25.2 『レース信号』に記載されている視覚信号と音響信号の意味は、規則86.1(b)に基づく場合を除き、変更してはならない。他の信号を用いる場合は、その意味をレース公示または帆走指示書に記載しなけれればならない。

 

SIを確認したところ、12.4に記載されていました!

TOKYO 2020 SAILING INSTRUCTIONS

ただでさえ分かりづらいセーリング競技、その中でも分かりづらいスタートも、この方式だとテレビ放映等で観戦する一般の方々にも分かりやすくて良いですね。

 

せっかくなので、競技規則の変更のやり方等について、紹介しておきますね。

 

86 競技規則の変更

86.1 競技規則は、その規則自体で認められているか、または次の場合を除き変更することはできない。

(a) 各国連盟規程では、競技規則を変更することができる。但し、次の規則は変更することができない。

・定義

・基本原則

・序文の規則

・第1章(基本規則)、第2章(艇が出会った場合)、第7章(レースの主催)

・規則42(推進方法)、43(免罪)、47(ごみの処分)、50(競技者の衣類と装備)、63.4(利害関係)、69(不正行為)、70(各国連盟への上告と要請)、71(各国連盟の裁決)、75(大会への参加)、76.379(分類)

・以上の規則のいずれかを変更している付則の規則

・付則H(衣類と装備の計量)、N(インターナショナル・ジュリー)

・規則6.1に記載されたWorld Sailing規程の規則

(b) レース公示または帆走指示書では、競技規則を変更することができる。ただし、規則76.176.2、付則R(上告と要請の手順)、または規則86.1(a)に記載された規則は変更できない。

(後略)
※規則76(艇または競技者の排除)

抗議をする。⑤

改めて、「抗議をする。(抗議をされる。)」とは具体的にどのような展開になるかについて整理します。

 

(前提)海上での軽微なインシデント(=乗組員の傷害or/and艇の重大な損傷がない場合)において、規則を守り、守らせる。

 

相手に規則違反があると思った場合に、その意思表明として「Protest」の声かけをします。

その時、被抗議艇側の選択肢は3つあります。

①自艇に規則の誤りがあったと認める場合、ペナルティーを履行する。

②声かけをした方の艇に規則の誤りがあったと思った場合、「Protest」の声かけをする。(双方同時になることもある。)

③自艇に規則の誤りが無かった場合は、特に何も対応しない。

被抗議艇が規則違反を認めてペナルティーを履行すれば、その規則違反は解消され、これ以上何も起きません。(この時のペナルティーは、回転ペナルティーです。SIに代替手段が記載されている場合は、その手段がペナルティーとなります。)

 

声かけをしても相手艇がペナルティーを履行しなかった場合、抗議締切時間までに審問要求書を提出します。そして、被抗議艇にその旨を伝えます。(海上で「Protest」の声が確実に伝わっていれば、陸上で再度伝えなければならない規則は無いのですが、審問要求書を出したら/出す前ならその旨は、伝えた方が良いでしょう。)

その時、被抗議艇側の選択肢は2つあります。

自艇に規則の誤りがあったと認める場合、ペナルティーを履行=リタイアする。

②審問にての判定に委ねる。

Protest」が聞こえなかった、自分が言われたと思っていなかった、そもそも規則違反した認識が無かった(ルールを知らなかった)場合や、自分が抗議されることを知って内容を確認し、自分に非があったことを認めた場合、①ということがあり得ます。リタイアすることでその規則違反は解消されます。

 

抗議する側が抗議をすることを決めるタイミングは2回あります。

①インシデントの際に「Protest」と声をかけるか、かけないか

②陸上に戻って審問要求書を出すか、出さないか

 ルール勉強会でもよく言われますが、違反があったと思ったら、まずは声かけをしておいて、実際に抗議をするかどうかは、陸上に上がってから決めてもよい。ということです。

そして審問要求書を出したら終わりではなく、その後被抗議艇がリタイア(ペナルティーを履行)しなかった場合、ここから審問がスタートします。

 

ちなみに、抗議をして審問を進めた結果、抗議した側が失格になるケースも実際にあります。インシデントが起きて、自分が審問要求書を書くと、(自分が正しいと思うから抗議をするわけですが、)自分が正しくて相手艇に誤りがあったと思い込んでしまいます。ところが前回書いたように、自分の主張を証拠・論拠をもって客観的に、規則に則って証言できなかったり、相手艇の主張・証言の方がより合理的であったりする場合に、そのようなことが起こり得ます。また、双方失格や双方規則違反無しということもあります。

 

なお、抗議側は、そのインシデントにおける相手艇の規則違反を指摘するための抗議が出来ますが、インシデントによって下がってしまった自分の順位を元に戻して欲しいといった要求はできません。

但し、インシデントによって損傷等が発生した場合は、救済の要求を出来る場合もあります。しかしそれは「軽微な」インシデントに当てはまるか?となりますし、そのようなケースを含めた救済の要求については次回に書きたいと思います。

 

抗議をする。④ ~審問要求書を書く(後編)~

続きです。サンプルケースを再掲します。

 

(サンプルケース1)

①自艇Aスターボードで帆走している。イーブンな位置でポート艇Bがいて、あと5艇身位でミートしそう。B艇はこちらの存在には気付いている。

②(ミートの約5~4艇身前)ヘッダーが入る。自艇はあと10度ヘッダーが入ってからタックしたいので、あと少し行ってタックしたい。B艇は前を通ろうとしているようだが、ギリギリ無理だろう。後ろを通らせたい。「スターボード」と声をかけた。

③(ミートの約3艇身前)声をかけられたB艇は、それによって自艇の後ろを通ることを決めたようで、舵を切っている。

④(ミートの約2艇身前)ベアアウェイして自艇の後ろを通ろうとするB艇だが、ヘッドセールのイーズが遅くて、ベアが遅れている。さらにヘッダーが入る。

⑤(ケースの瞬間)自艇はスターボードタックのコース変更はなく帆走をしていたところ、ポート側のスターンにB艇が接触した。

すぐに接触箇所を確認したところ、ゲルコートが剥げた程度で、レースはこのまま続行できそうだ。相手艇の損傷も無さそうだ。

 

審問要求書を書くのが簡単ではない理由の1つ目は記憶に依って書くからですが、その中のインシデント自体を覚えていられないことを前回書きました。それから、インシデントから遡った状況=記憶しようとしていない過去のこと、を記憶の中から取り出して明確にすることが難しいという点もあります。

サンプルケースのように、「ミートしそうだなぁ」と思って、それからミートして、それが接触になるというインシデントもありますが、例えば相手艇の予想できない行動から突然起こるインシデントもあります。後者の方が多いのではないでしょうか。

つまり、インシデントは起こって初めて気づくこともある訳で、起こるまでのことを意識的に記憶していない場合があり、そのために審問要求書を書く段階になって、状況説明が曖昧になってしまうということはよくあることなのです。

このサンプルケースでさも、④を見ていなかった(相手艇が避けはじめたことを見た後はセーリングに集中していた)場合、接触があって初めて気付くということもあるかもしれません。そうすると、接触の瞬間に「え?」となって、状況が把握できなくなってしまったり、混乱してしまってそもそも「Protest」の声掛けが出来なかったり、ということがあります。

 

今回は、ミートしそうだなと思って相手艇を観察していたので、その状況をインシデントの説明として審問要求書に下図の見取り図を添付したとします。

f:id:destino_sailing:20210704112542p:plain

※このような図に、海面の状況、マークの方向や周囲(他艇等)の状況、等、書き込むなり説明文に追加するなりをして、より具体的にそのインシデントの状況を客観的にわかりやすく書きます。

 

実際は、手書きで、何度も書き直したりして、このようなきれいな図は書けないと思います。しかし、一番大事なことは、「自分が主張する相手艇の規則違反を、事実に基づき論理的に説明できているか」ということです。従って、特に自分の行動について「~だったかもしれない。」「~したような気がする。」というのは、それが事実なのかの判別がしづらく、論理の根拠として軽くなってしまうこともあります。もちろん、本当に記憶が曖昧なこともあるかもしれません。そういう時は「は明確に見ていた。④では見ていなかったしヘッダーが入ったのは感覚程度でコンパスは見ていなかったが、⑤はこうだった。従って、間を取ると④はこういう状況だったのではないかと推察する。」等と書ければ(審問で言えれば)、信憑性が高くなります。

この辺りは審問の回で書こうと思います。

 

ちなみに、例えば艇上においてカメラで独自に録画していた映像があるとします。それを審問で使えるか?ということですが、結論から言うと、使えます。但し、カメラのアングルやレンズ性能によっては、その映像だけでは立証できないこともありますので、映像があるから万事OKではなく、やはり「事実に基づき論理的に説明(もしくは反論・質問)」が出来るような準備は必要です。

そして、基本的には映像データ・機材その他は当事者が準備します。なお、写真・映像証拠がある場合は、審問前にそういったデータあることを伝え、事前にプロテスト委員会にデータを渡せると良いです。

World Sailingインターナショナル・ジャッジ・マニュアルF.10.5 より)

 

審問要求書を書くのが簡単ではない理由の2つ目は、ルール知識・その引き出しの少なさです。(これも私も含めてとご理解ください。)

例えばサンプルケースであっても抗議する根拠が「先輩/コーチからスターボードとポートではスターボードが権利艇だと聞いていたから。」では、

61.2(d) 抗議者が、違反があったと考える規則

を特定出来ないですし、複数の規則と絡んだインシデントもあり得ます。

もちろん、ルールブックを読むより練習した方が良いのですが、いざという時のために、ルールブックにはどんなことが書いてあるか、ルールブックに書いてあること以外の守るべき規則(NOR/SI含めて)の存在や、またケースブック(判例集)の存在も知っておいてください。(ケースブックもRRSと同様にJSAF HPから購入することが出来ます。)

※本ブログも役に立つと嬉しいです。

 

抗議する側が「Protest」と言いペナルティー履行がされなかったものの、審問要求書を書くことが厄介(理由は大きく二つ、記憶の曖昧性と、ルールの曖昧性)ということで、実際は抗議にならない=相手艇が失格にならないことがあります。しかし、守り守らせるRRSのもとに開催しているレースですから、誤りがあった場合にはその誤りと指摘して改善を促していきましょう。

審問要求書を書き、審問を経験することは、セーリング競技を続ける上でも有益な体験になると思いますよ。

 

抗議をする。③ ~審問要求書(=旧・抗議書)を書く(前編)~

さて、抗議書(審問要求書)を書くことになりました。

 

ところで、前回からしつこくこの書き方「抗議書(審問要求書)」をしているのは、今回のルール改正で「審問要求書」が出てきたからです。(初めてルールブックを読む方、混乱させてすみません。)

RRS2021-2024の改正で、RRSに「抗議書」の書式が掲載されなくなりました。そして、「抗議書」は新しい2つの書式「審問要求書」と「判決書」に置き換えられてWorld Sailingのサイトから入手可能となっています。今まで、抗議書の表面と裏面になったりしていたものですね。なお、第5章の前文によると、RRSは特定の書式を使うことを求めていないとのことですので、提出する内容が合理的であれば、書式は問わないということでしょう。ただ、抜け漏れがあっては受け付けられないこともあるので、ダウンロードした書式を使うことがベターかと思います。ただ、RRSに以下のURLが記載してありますが、20217月現在、2つの新書式は見当たりません・・・。

https://sailing.org/racingrules/documents

今までのものでも要件は満たせるので、一旦は良いということでしょうか。

JSAFのHPではプロテスト委員会用標準フォームとして、以下の書式が入手可能となっています。

http://www.jsaf.or.jp/rule/Format/HearingRequestForm210511.docx

(上記URLをブラウザにコピペすると書式のダウンロードが出来る仕様のようです。)

 

前置きが長くなりましたが、審問要求書を書く時には、まず、抗議の内容を特定します。

 

61.2 抗議の内容

抗議は書面で、以下のことを特定しなければならない。

(a) 抗議者と被抗議者。

(b) インシデント。

(c) インシデントがいつどこで発生したか。

(d) 抗議者が、違反があったと考える規則

(e) 抗議者の代表者の氏名。

ただし、(b)の要件が満たされている場合には、(a)の要件は審問前ならばいつでも満たすことができ、(d)(e)の要件は審問前または審問中に満たすことができる。(c)の要件もまた、被抗議者に審問の準備をするための妥当な時間を与えることを条件に、審問前または審問中に満たすことができる。

 

つまり、インシデントはどれか、が特定できていれば、それ以外は途中で変わることもあり得るということです。ただし、もちろん審問前/中には全てを特定させていきます。

 

さて、RRSに書かれている手続き上の縛りはこれだけです。あとは審問で事実を認定していきます。

審問要求書の記載は簡単?ルール講習会やクラブ活動の勉強会で、抗議について勉強して、書いたことがある方もいるかもしれませんが、サンプルケースで審問要求書を書くところをイメージしてみましょう。

  

(サンプルケース1)

①自艇Aはスターボードで帆走している。イーブンな位置でポート艇Bがいて、あと5艇身位でミートしそう。B艇はこちらの存在には気付いている。

②(ミートの約5~4艇身前)ヘッダーが入る。自艇はあと10度ヘッダーが入ってからタックしたいので、あと少し行ってタックしたい。B艇は前を通ろうとしているようだが、ギリギリ無理だろう。後ろを通らせたい。「スターボード」と声をかけた。

③(ミートの約3艇身前)声をかけられたB艇は、それによって自艇の後ろを通ることを決めたようで、舵を切っている。

④(ミートの約2艇身前)ベアアウェイして自艇の後ろを通ろうとするB艇だが、ヘッドセールのイーズが遅くて、ベアが遅れている。さらにヘッダーが入る。

⑤(ケースの瞬間)自艇はスターボードタックのコース変更はなく帆走をしていたところ、ポート側のスターンにB艇が接触した。

すぐに接触箇所を確認したところ、ゲルコートが剥げた程度で、レースはこのまま続行できそうだ。相手艇の損傷も無さそうだ。

 

(a) 抗議者と被抗議者。

→抗議者:自艇A。被抗議者:B艇。

(b) インシデント。

→第2レース 2回目の風上レグ風上レグの中盤において、自艇Aがスターボードタックで帆走をしていたところ、自艇の後方を通って避けようとしたポートタックで帆走していたB艇のポート側のバウから1/3のあたりが、自艇のポート側のスターンにこするように接触した。インシデント説明として見取図(サンプルケース1を図解:風向と流れの方向、マーク、周囲の艇の状況等を示す)を添付。

(c) インシデントがいつどこで発生したか。

→(仮に)○月○日○○レガッタ 第2レース 2回目の風上レグ 時刻○:○○

(d) 抗議者が、違反があったと考える規則。

→規則10航路権 反対タック

(e) 抗議者の代表者の氏名。

→貴則 守

 

大丈夫ですね!簡単ですね!

???

確かに簡単そうなのですが、机上で簡単なケースであっても、現実はそう簡単にいかないことが多いです!

まず、最低限これらが書いてあって初めて審問に進むわけですが、特定する内容が変わることを容認しているくらい、曖昧になるものなのです。

 

簡単にいかない理由は、大きくは2つあると思っていて、その1つ目は、記憶に依って書くからです。分解して説明します。第一に抗議をする場合、海上で「Protest」と言って、その後は陸上で審問要求書を書けばよいと言っても、実際にペンを持って紙に向かってみると、人の記憶とは、かくも儚いなものだということがよくわかることがあります。

(a)(e)で曖昧になるのは、私は今までの経験で(b)(c)だと思っています。特に(c)。14レースのレガッタで、コースは上→サイド→下→上→下→上→サイド→下→フィニッシュ。風上レグでのケースだったとしましょう。一日で何回風上レグを帆走するでしょう?この場合、計12回の中から一回を特定するわけです。強風で肉体はヘトヘトになって帰ってきて、あれ?あのケースは2レース目の1上?2上?もしかして1レース目だったったけ?となることは想像に難くないのではないでしょうか。そしてインシデントの詳細さえ、曖昧な記憶となってしまうのです。ましてや、自分が抗議するだけでなく、抗議される場合もあり、1日に複数のインシデントに巻き込まれた場合、(a)すら記憶が曖昧になります。まさか?と思うかもしれませんが、参加者に顔見知りの少ない海外でのレースを想像してみてください。艇名があれば艇名ですが、似たようなセール番号の一つを覚えておくのすら厄介です。私の記憶力が悪すぎるだけかもしれませんが・・・。

 

抗議をしたら/されたら、審問要求書を書くこと/審問に参加することを想定して記憶することを意識しましょう。私は大事なレースではデッキに養生テープをマット状に貼り、水中でも書ける油性マジックを用意しています。レースのための風向やマーク角度等のメモを書くのはもちろん、インシデントが起きた時にはレグ・発生時刻・相手艇・ケースを立証できる周辺状況をメモします。証言艇になってくれそうな艇や、その位置なども書きます。これは審問要求書を書くのに非常に役に立ちますし、抗議された時も証言するのに自信が持ててブレがなくなるため、内容の信憑性が増しますのでお勧めです。自分は抗議しないと思っていても抗議されることもあります。自分は規則違反をしていないと思っていても、自分が規則違反をしていないことを立証できなくて審問の結果で失格となってしまうこともあるのです。用意は周到にしておくことを超オススメします。

ちなみに、クルー同士の意思疎通も大事です。ヘルムがメモを取れない場合は、クルーがメモを書きます。メモを書けるタイミングまでに時間がかかるかもしれないので、それまでにも忘れないように、レースに集中しつつもインシデントの状況を口にして認識の共有化をしておきましょう。だいたい、頭に血が上っている状態になったりするので、状況を客観的に捉えたり審問を想定した論理的な会話をすることは、冷静になるためにも有効です。

 

長くなったので、続きは次回に。

 

抗議をする。②

続きです。以下のケースで抗議をしてみましょう。

 

(サンプルケース1)

自艇Aスターボードで帆走している。イーブンな位置でポート艇Bがいて、あと5艇身位でミートしそう。B艇はこちらの存在には気付いている。

(ミートの約5~4艇身前)ヘッダーが入る。自艇はあと10度ヘッダーが入ってからタックしたいので、あと少し行ってタックしたい。B艇は前を通ろうとしているようだが、ギリギリ無理だろう。後ろを通らせたい。「スターボード」と声をかけた。

(ミートの約3艇身前)声をかけられたB艇は、それによって自艇の後ろを通ることを決めたようで、舵を切っている。

(ミートの約2艇身前)ベアアウェイして自艇の後ろを通ろうとするB艇だが、ヘッドセールのイーズが遅くて、ベアが遅れている。さらにヘッダーが入る。

(ケースの瞬間)自艇はスターボードタックのコース変更はなく帆走をしていたところ、ポート側のスターンにB艇が接触した。

すぐに接触箇所を確認したところ、ゲルコートが剥げた程度で、レースはこのまま続行できそうだ。相手艇の損傷も無さそうだ。

 

とりあえず「Protest」と声をかけました。

次にすることは何でしょうか?

 

すること、していいこと、してはいけないことを見つけてください。

①抗議書(審問要求書)を書く。

②運営に抗議する旨の申告をする。

プロテスト委員会のメンバーに知り合いがいたので相談する。

ジャッジの資格を持つ友人に電話で相談する。

⑤抗議は面倒なので、相手艇にリタイアするように申し入れる。

 

はい、どんどんいきましょうね。

することは、①抗議書(審問要求書)を書く。です。根拠は、以下です。

 

61.2 抗議内容

抗議は書面で以下のことを特定しなければならない。(後略)

 

「Protest」と伝えなければ抗議は始まりませんが、抗議書(審問要求書)を書いて出さなければ抗議をしたことになりません。

 

次に、②運営に抗議する旨の申告をする。ですが、運営上の理由でSIに記載されていることがありますので、記載されていたらそのようにしてください。ただ、その場合でも申告をしたら抗議を受け付けてもらえるということではありません。抗議受付時刻までに、抗議書(審問要求書)を提出してはじめて、抗議が受け付けられます。その根拠は、以下です。

 

61.3 抗議締切時刻

艇による抗議(中略)は、帆走指示書に記載された抗議締切時刻までに、レース・オフィスに提出されなければならない。(後略)

 

それ以外は相手がOKなら、別にしていいです。

ただ、③プロテスト委員会に知り合いがいたので相談する。は、ほぼ受け入れられることはないでしょう。理由は、利害関係があると思われる行動は、抗議者にとってもそのプロテスト委員・レース運営側にとっても得策ではないからです。

 

63.4 利害関係

(a) プロテスト委員会のメンバーは、利害関係の可能性に気付いたら、できるだけ早く表明しなければならない。プロテスト委員会のメンバーに利害関係があると考える審問の当事者は、できるだけ早く異議を申し立てなければならない。(後略)

 

定義 利害関係

ある人は次の場合、利害関係があるという。

(a) その人物が関与する決定の結果、自身に損得が生じる場合。

(b) 公平である能力に影響を与えうる、個人的または経済的利害関係があると、常識的に見ることができる場合。

(c) ある決定に関し、密接な個人的利害がある場合。

 

定義 当事者

審問の当事者とは以下の者である。

(a) 抗議の審問では、抗議者、被抗議者。

(後略)

 

つまり、抗議者がプロテスト委員会のメンバーと個人的な関係があると、プロテスト委員会のメンバー(相談された本人を含む)・被抗議者が考えた場合、申し立てをします。場合によっては相談された人はプロテストメンバーから外れます。ショートハンドで運営していると、プロテスト委員会・審問そのものに影響します。というより、やはり審問の公平性の観点から、競技者から相談を受けたプロテスト委員会のメンバーがその相談に応じるケースはほぼないでしょう。

メンバーから外れない場合は、一応以下がありますが・・・。

 

63.4 利害関係

(b) 利害関係のあるプロテスト委員会のメンバーは、審問を行う委員会のメンバーになってはならない。ただし、次のいずれかの場合を除く。

 (1) すべての当事者が同意した。

 (2) プロテスト委員会が、利害関係は顕著ではないと判断した。

 

次の、④ジャッジの資格を持つ友人に電話で相談する。も、相手が応じればしても良いでしょう。但し、先述の理由より、当該レースに携わっていない人に相談しましょう。また、そのアドバイスが審問でどれだけ有効になるかという観点では、相談にあまり意味がないこともあるでしょう。審問で「知り合いのジャッジの人がこう言ったから。」と言っても、それは何の根拠にもなりません。

 

最後の、相手艇にリタイアするように申し入れる。も、相手が応じるかどうかは別として、すること自体は問題ないでしょう。相手が自分の規則違反に気付いていないことがありますからね。

 

いかがでしたか?してはいけないことはありませんでした(クイズとしてよくなかったですね、すみません。)が、プロテスト委員会の視点であえて言うなら、それは③かな。

 

次回は、「抗議書(審問要求書)を書く。」です。

 

抗議をする。①

色々と小難しいこともあるのですが、とりあえず、「抗議をする。」という話を進めます。

※小難しいのです。「艇が出会った場合」というレース中の権利関係を記載した第2章が7ページなのに比べ、「抗議、救済、審問、不正行為および上告」という抗議関連を記載した第5章は16ページもあるのです!

 

さて、自分がどんなシチュエーションでどうやって相手艇に抗議するか、を想像してみてください。

よくあるクロースホールドでのスターボード・ポートのケースにしましょうか。2人乗りのスループ・リグのディンギーと想定しましょう。

 

(サンプルケース1)

自艇Aスターボードで帆走している。イーブンな位置でポート艇Bがいて、あと5艇身位でミートしそう。B艇はこちらの存在には気付いている。

(ミートの約5~4艇身前)ヘッダーが入る。自艇はあと10度ヘッダーが入ってからタックしたいので、あと少し行ってタックしたい。B艇は前を通ろうとしているようだが、ギリギリ無理だろう。後ろを通らせたい。「スターボード」と声をかけた。

(ミートの約3艇身前)声をかけられたB艇は、それによって自艇の後ろを通ることを決めたようで、舵を切っている。

(ミートの約2艇身前)ベアアウェイして自艇の後ろを通ろうとするBだが、ヘッドセールのイーズが遅くて、ベアが遅れている。さらにヘッダーが入る。

(ケースの瞬間)自艇はスターボードタックのコース変更はなく帆走をしていたところ、ポート側のスターンにB艇が接触した。

すぐに接触箇所を確認したところ、ゲルコートが剥げた程度で、レースはこのまま続行できそうだ。相手艇の損傷も無さそうだ。

 

あなたなら、どうしますか?

 

相手艇に言うセリフを選んでください。

1. 「おい!」

2. 「回れよ!」

3. 「Protest!」

4. 「・・・。」

 

簡単ですね?

 

誤解を恐れずに言うと、どれでもいいです。

但し、結果として相手がペナルティーを履行をすれば。です。

守り守らせるのがセーリング競技規則ですから、このケースのように明らかに相手艇に非がある場合には、その艇はそもそも何も言われなくてもペナルティーを履行すべきなのです。

 

ですが、その時点では未来のことであるケースの事後を鑑みると、このケースを立証する一つの手段が「Protest!」という声かけなので、やっぱり「Protest!」が無難な選択肢でしょう。

 

というのも、

B艇から「Protest!」と声をかけられるかもしれません。

B艇がペナルティーを履行しないかもしれません。

B艇がペナルティーを履行しない理由も色々出てくるかもしれません。↓

・プロテストと声をかけられなかったから、そのまま行って良いと思ったから。

・タックでA艇を避けるとB艇の風上側にいたポート艇Cに対して避けるためのルームを与えられないためにポートで進まざるを得なかったから。

・別のポート艇DB艇の風下側にいて、ベアアウェイが出来なかったから。

接触に気付かなかったから。

等。

これ、実際にある話です。

 

まさか!ということが起こるのがケースと思ってください。

ケースが起きて、自分が規則違反をしたと思ったらペナルティーを履行し、相手が規則違反をしたと思ったらまずプロテストの声かけをしましょう。抗議をするかはその後にも決めるタイミングがあります。

 

とりあぇす、抗議することについて、上記のサンプルケース1(航路権規則10)での抗議を想定して、話を進めますね。

一番初めにすることは、以下です。

 

61 抗議の要件

61.1 被抗議者に伝えること

(a) 抗議する艇は、その意思を最初の妥当な機会に相手艇に伝えなければならない。その抗議がレース・エリアにおけるインシデントに関わる場合、艇は最初の妥当な機会に「プロテスト」と声をかけ、目立つように赤色旗を掲揚しなければならず、それぞれを最初の妥当な機会に行わなければならない。その艇は、レース中でなくなるまで、赤色旗を掲揚しておかなければならない。ただし、(後略)

 

声かけの言語については、こちらの回にも記載しています。↓

スターボ!と下!・・・なんて言う?? - Destino-sailing

声かけは「Protest」が基本ですが、レースに出ている全員が「抗議」という日本語とその意味を理解できることが確実であれば、「抗議」でも可です。とはいえ、日本国内のレースでも「日本語のわかる人しかいない」ではない可能性もありますし、世界に羽ばたくセーラーを目指すならば「Protest」と言うようにしましょう。

 

それから、61.1(a)を読んで、え??と思ったディンギーセーラーのあなた。「目立つように赤色旗を掲揚」なんて、見たことないかもしれませんが、以下の規則によって適用外になる艇種があるわけです。

 

61.1(a)(2) 艇体の長さが6メートル未満の抗議する艇は、赤色旗を掲揚する必要はない。

 

では、抗議の意思を伝えたいタイミングで、例えばそのケースに起因して沈をしてしまったり、「プロテスト」を伝えられなかった場合は?

 

61.1(a)(1) 相手艇が声をかけられる距離以上に離れている場合には、抗議する艇は声をかける必要はないが、その意思を最初の妥当な機会に相手艇に伝えなければならない。

 

当該レース終了後の、次のスタートを待っている時でもいいです。陸に上がってからでもいいです。とにかく「最初の妥当な機会」に相手艇に伝えてください。抗議書(審問要求書)を書いて、プロテスト委員会から呼び出しくらうので驚かしてやろう、なんて思わないでくださいね。

クルーザーレースでは同じ港に戻らないこともあるかもしれませんが、電話でもいいです、とにかく伝えることがマスト要件です。

 

長くなったので、続きは次回に。

 

抗議の権利

ここまで、海上で選手がセーリングする中で守るべき規則を中心に書いてきました。

ということで、基本原則の「スポーツマンシップと規則」を再掲します。

 

基本原則

スポーツマンシップと規則

セーリング・スポーツの競技者は、守り守らせる一連の規則により統制されている。

スポーツマンシップの基本原則は、艇が規則に違反し、かつ免罪されない場合、速やかに適切なペナルティー履行もしくは行動することであり、その行動はリタイアの場合もある。

 

はい、基本原則で、規則を守ることが求めれています。そして競技中に自らが規則に違反した場合、適切なペナルティーを履行することが求められています。
ところが、レースに出て他艇と接近する状況で、自分は規則を守っていると思っていても抗議されたり、規則違反をしてもペナルティー履行をしない艇がいたりします。

レースに出たからと言って、必ず遭遇するわけではないけれど、だからこそ遭遇すると慌ててしまうのが「プロテスト!」と言われたり、言うようなシチュエーション。

ここから何回かは、抗議って?どうやって抗議する?抗議すると何が起こる?等、書いていきたいと思います。

 

やっぱりまずは、定義の確認から。

 

定義 抗議

艇が規則に違反したことに対する、艇、レース委員会、テクニカル委員会またはプロテスト委員会による規則61.2に基づく申し立てを抗議という。

 

61.2 抗議内容

抗議は書面で、以下のことを特定しなければならない。

(a) 抗議者と被抗議者。

(b) インシデント。

(c) インシデントがいつどこで発生したか。

(d) 抗議者が、違反があったと考える規則。

(e) 抗議者の代表者の氏名。

(後略)

 

抗議の定義も規則61.2もすごく簡単に読めますね。でも、理不尽だ~と思うことがレース中に発生したりすると、何に抗議するのか分からなくなってしまったり、また、レース中にその全てを立証できるように準備するのは、結構大変です。細かくは、次回以降の回に書きたいと思いますので、今回は、タイトルの通り、抗議は一つの権利だということをお伝えします。

 

5章 A節 抗議、救済、規則69の処置

60 抗議の権利、救済要求の権利、または規則69の処置

60.1 艇は次のことができる。

(a) 他艇を抗議する。

(b) 救済要求をする。

(c) 規則60.3(d)または69.2(b)に基づく処置を要請してプロテスト委員会に報告する。

 

たまに、レース委員会の不手際に対して抗議する!と言う方がいらっしゃいますが、レースに参加している競技者・艇の場合、抗議は規則に違反した他艇に対しての申し立てのみです。レース委員会に対してRRS上抗議は出来ません。(文字通りの「抗議する!」は言えたとしても、RRS上効力はないです。の意。)

レース委員会への申し立てをする場合は、救済要求のみとなります。(これについてもまた次回以降の回に。)

 

最後に、そもそも基本原則にある「守り守らせる一連の規則」って?を一応書いておきます。セーリング中以外の規則も含まれます。

 

定義 規則

次のものを規則という。

(a) 本書の規則。これには、定義、レース信号、序文、前文および関連する付則の規則を含む。(後略)

RRSを指します。

(b) World Sailing規定集のうち、World Sailingにより規則であると位置付けられ、かつ、World Sailingのウェブサイトで公開されている規定。

20216月現在公開されている規定は、RRS2021-2024日本語訳第1版の第1章規則6に記載されている6つの規定です。

(参考)本ブログのスポーツ倫理の回

(参考:最新版はこちらから確認してください)

https://www.sailing.org/documents/regulations/regulations.php

https://www.jsaf.or.jp/hp/about/committee/rule/rule-reg

(c) 各国連盟規程。ただし、規則88.2に関する規程がある場合にはその各国連盟規程に従って、レース公示または帆走指示書で変更された場合を除く。

→いつか、どこかの回で書くかもしれません。

(d) クラス規則(ハンディキャップ・システムまたはレーティング・システムでレースを行う艇にとっては、そのシステムの規則が「クラス規則」である。)

→いつか、どこかの回で書きます。

(e) レース公示。(英語表記:the notice of raceNOR

(f) 帆走指示書。(英語表記:the sailing instructionsSI

→例えば、規則28 レースの帆走 の違反についての根拠は、NORSIに記載のコース図になるということだったり。

(g) 大会を管理するその他の文書。

→コロナ禍における大会運営上の、感染拡大予防や健康管理のガイドラインがそれにあたりそうですね。

 

そして、上記の規則に違反した艇に対して申し立てる抗議ですが、抗議が出来ないという例外もあります。その例外についてや、セーリング中以外の規則についてもまた、おいおい書いていきたいと思います。